薬学部の学生が就職活動をする際に「大手調剤薬局であれば無難だから」「中小の薬局よりも大手の薬局の方が安泰」と言う理由で薬剤師としての最初の就職先を決めようとする人がかなり多いです。確かに大手調剤薬局は
・研修がしっかりしている
・将来が安泰
・福利厚生がしっかりしている
等のポジティブなイメージが大きく、就職を考える気持ちも十分に理解できます。
しかしはっきり言って安易な考えで新卒薬剤師が大手調剤薬局に就職することはおすすめしません。
そこで今回は薬学部の学生がどうして安易に大手調剤薬局への就職をしてはいけないのかと言う理由を紹介してきたいと思います。
将来的に大手調剤薬局への就職を考えている薬学生はぜひ参考にしてみてください。
大手調剤薬局はやめとけと言われる理由
研修がしっかりしているという甘え
大手調剤チェーンへの就職を考える薬学部の学生の大半は「薬剤師としての基本をしっかり学べる。研修がしっかりしている大手調剤チェーンで勉強したい」と考える人が多いです。
そして多くの薬学生は大手調剤チェーンの研修と聞いて「短期集中で研修を受けて、いざ現場に出ても問題ない様な一生通して身に付くスキルを得られる」と言った印象を持っているのではないでしょうか。
しかし残念ながら研修で学べる事はよくて薬剤師としての最低限のスタートラインに立てるだけです。それ以上でも以下でもありません。
もし仮に1人前の薬剤師を短期間で育てるスキームが確立しているのであれば、世の中の薬学部の実習を今すぐ廃止にして、薬学生全員一日でも早く大手調剤薬局の研修を受けた方がいいでしょう。
しかしそんな魔法の様な研修は存在せず、それに薬剤師業界において「大手出身だから」という理由であなたの薬剤師としてのスキルが保証されることは残念ながらありません。
言ってみれば薬剤師の研修で得られるスキルと言うのは自動車の教習所で言うところの仮免許のようなものです。実際にハンドルを握って公道を走る事とは一線を画します。
また一般的に「薬剤師として基本を学びたい」と高い意識があるのに、結局いつまで経っても学ぶことに対して与えられるものをこなしていくという考えでは一生自立して学んでいくことはできません。
大手調剤だから研修しっかりしているから安心と言うのは一人の薬剤師として働き始める社会人として圧倒的受け身の考え。今後の成長のためには自分で学習する姿勢が必須になります。
大手調剤薬局なので将来安泰と言う幻想
「これから薬局業界は厳しい時代になる。だから大手に入っていれば安心」と考える薬学部の学生も非常に多いです。また将来的には体力のある大手調剤チェーンの一人勝ちになると考える薬学生もいると思いますが少し立ち止まって考えてみましょう。
そもそも薬局に限らず一般的な大手企業においても安泰や終身雇用などもはや過去の栄光。今の時代上場企業でも安泰と考える人は珍しく、終身雇用を信仰している人などかなり少数派になります。
例えば少し前まで「銀行員」と聞けばエリートと考えられていた時代もありましたが今の時代そう考える人はほとんどいませんよね。銀行など将来性のない厳しい業界のトップと言っても過言ではありません。
よって、ただでさえ斜陽産業の調剤薬局事業においても大手調剤だから安泰だという認識は即刻改めた方がいいです。
しかしそうは言っても「大手調剤薬局ですら安泰でないならば、その他はさらに厳しい状況なのでは?」と思う人もいるかもしれません。確かにそれは間違いとは言えないでしょう。
ただ大手調剤薬局が大手でいられる理由を考えたことはありますか?
大手が大手でいられるその理由は大手は常に効率化を徹底しているからです。かみ砕いて言えば必要最低限の人員で、最も利益が上がるように効率化を求められるという事です。
例えば大手調剤薬局チェーンの決算資料を見る限り、ほとんどの企業が売り上げは上がっていますが利益は右肩下がり。大手調剤薬局は調剤薬局事業以外にも複数の事業を手掛けていることも多いですが、こと調剤薬局事業に関して言えば明らかに右肩下がりになっています。
もちろん急に会社が倒産し職を失うことはまずないでしょう。しかし今後診療報酬改定によって報酬が下がり続ける事はほぼ確定的です。すると利益を得るために一人の薬剤師に求められる負担と言うのは確実に増えていくでしょう。そしてその負担と言うのは今後さらに増していくことは間違いありません。
会社が存続し続けることが「安泰」と考えるのであれば大手調剤薬局へ就職する方が無難かもしれません。しかし薬剤師としてそれは果たして安泰と言えるのでしょうか。また一般的な企業で言えば大手出身と言うのはそれなりにブランドとして利用可能ですが、薬局薬剤師に関してはほぼ無意味です。
福利厚生や給料ははっきり言って普通
例えば大手調剤薬局の場合、借り上げ社宅の補助や引っ越し代や家電購入費を負担してくれる福利厚生などがあります。またママ薬剤師のために短時間勤務制度を導入したり、企業によっては薬局ならではの福利厚生として自分が病院受診してかかった薬代を全額会社負担してくれる制度などもあります。
これらはもちろん「ないよりは絶対にあった方が良いと思える福利厚生」ばかりですが、はっきり言って一般的な企業の福利厚生です。極端に良いわけではありません。もちろん中小企業が多い調剤薬局業界の中に限って言えば比較的まともな方ではありますが、新卒薬剤師にとって目を見張る様な福利厚生はありません。
では大手調剤薬局の年収はどうなのかと言えば新卒の場合で言えば年収300~400万円が一般的です。 福利厚生の分を差し引いても薬剤師の平均年収である550万円前後にはとどきません。
大手以外の薬局によってはこれらの2倍以上の給料をもらえる薬局もありますが、大手ではかなり年収面は厳しいと言えるでしょう。
薬剤師は一生同じ職場で働く事はまずない
結果としては思考停止で大手調剤チェーンに就職することはおすすめしませんが、もしあなたに理由があって大手調剤チェーンに就職したいと考えるのであればそれでも一向にかまいません。
例えば大手以外の薬局では薬剤師の数が足りずに給料が大手調剤薬局よりもかなり高い一方で、中々休みを貰えなかったりママ薬剤師にとって決して優しいとは言えない環境の職場も未だに多いです。
もちろんこれはほんの一例ですが、自分の将来を考えて様々な選択肢を比較した結果、やはり大手調剤薬局へ就職を考えるのであればそれはあなたの選択です。就職に有利な新卒のカードをどこで切ろうとも誰もあなたを責めることはありません。
ただ「薬剤師としての基本を学ぶために研修がしっかりしている大手に就職する」と言う考えは改めましょう。そして薬剤師として大事なことはむしろ基本を学んだそのあとになります。
研修がしっかりしていたとしても、いつまで経っても受け身の学ぶ姿勢であればあなたの成長はそこで止まってしまいます。そして自立して学ぶ事ができないという事は薬剤師として致命的です。
薬剤師として働く上で教科書には載っていない想像の斜め上の問題にぶち当たることは決して珍しい事ではなく、むしろその問題解決能力の高さや適応能力が薬剤師としてのスキルに結びつきます。
もし「自分は無難に薬剤師ができればいい。はっきり言ってそんな向上心もない。成長が止まって結構」と言う意識で無難に大手調剤薬局を選ぶ人もいるかもしれませんが、もしそれならば大手ではなく中小で給料の高い職場で働いた方がいいでしょう。
そしてどんな薬剤師・薬学生にも言えることですが、仮にどの職場で働いたとしても「一生ここで働く」と考える必要はありません。
「福利厚生や給料を重視したけど人間関係で病んでしまった」「取りあえず勉強目的で就職したけど給料が安すぎる」など、その時々の環境で往々にして起きる事です。
だからこそ薬剤師として働くたびに自分が薬剤師として何を求めるのかを考えてそこで働く選択をしてみてください。