コラム

不毛な疑義照会がなくならない理由と勝手に考えた解決策

 

最近この疑義照会に辟易している様をネット上でよく見かけるようになりました。理由としては複数ありますが代表的なものとしては「薬局からくだらない疑義照会の電話が迷惑」と言う医者や病院薬剤師の主張と「病院薬剤師は保険の事を何もしらない」と言う対立からくるものがあります。

 

ちなみに2019年に日本医療機能評価機構が公表したデータによると医療機関で発生した処方の誤りを薬局で発見した疑義照会関連の事例が、前年から約4万8800件と大幅増の5万1030件となったとされています。

参考:ヒヤリ・ハット8万件に迫る‐疑義照会関連が6割超に

 

すると考えてしまうのが「この年間5万件を超える疑義照会の中に本当の意味の疑義照会はどれだけあったのだろうか」と言う事です。

※余談ですがこの急激な疑義照会の伸びは地域支援体制加算の新設によるものとされていますが本当に分かりやすいですね。

 

しかし現在「疑義照会不要のプロトコル」を作成し、不要な疑義照会を解消するシステムを構築している地域も全国にありますが、それでも不毛な疑義照会はいつまでもなくらなりません。

そこで今回はどうしてこの問題が解決しないのかその理由について考えてみました。

 

不要だと思う疑義照会がなくならない理由

疑義照会のシステムが破綻している

薬剤師による疑義照会は薬剤師法24条に以下のように定められています。

薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない

 

例えば処方された薬剤の量に問題があったり、併用禁忌の薬が処方されていた場合などには薬剤師は疑義照会を行い、それを解消した上でのみ調剤が認められています。

そしてこれに対して反論する人はまずいないでしょう。

 

しかし問題なのが本当の意味での疑義照会でない様なものも同じ「疑義照会」の括りにされてしまっていることです。

 

これが常日頃から行われているために、医師や病院薬剤師からの疑義照会アレルギーが出てしまっていると考えられます。「どうしてこんなくだらない事で電話をしてくるんだ」と。

つまり「疑義照会」という括りが大きすぎるのが問題の1つであると考えます。

 

薬薬連携が取れていない

薬局からの疑義照会を受けるのが病院の薬剤師であるケースも多いです。

そして病院の薬剤師の中にある大きな誤解があります。それは「薬局薬剤師の権限は思っている以上に少ない」と言う事です。

 

薬局では添付文書通りの調剤を求められますので、それから外れる処方箋には基本的に疑義照会を行う必要があります。しかし薬局での経験がない病院の薬剤師からすれば「湿布の貼る場所なんか患者に聞けばいいのに」と考える人が一定数いるのも確かです。

 

ただこれはどちらが悪いと言う話しではなく、それ自体を知らない病院の薬剤師もいるわけですからこんな不毛な疑義照会でも義務である事を伝えたり、薬薬連携をもっと重視していく必要があると思うんです。

、、、と口で言うのは簡単ですが

と言う現実的な意見も当然あると思います。

 

不要な疑義照会でも意図して処方している可能性がある

例えば現在一包化を行う場合には医師の指示が必要です。

正直「このくらい事後報告にした方が病院にも手間をけないし患者に時間を取らせることもないのに」と考えてしまいますが、医師が本当に一包化が必要か否かを判断している場合もあります。

一包化の点数は高く自己負担が上がってしまいます。ですから本当に必要な人だけを選別するための目的や、悪い薬局だと点数を稼ぐために一包化を率先して算定しにくる可能性もゼロではなく、そのリスクを避けるために行う必要性もあるでしょう。

 

また漢方やナウゼリンの食後投与も患者のアドヒアランスを考えてあえて行っている場合もあり、それを勝手に食前に変更すると医師が意図した処方と違った処方が出来上がってしまう可能性もあります。

 

疑義照会不要のプロトコルを提案するまでのハードルが高い

無駄な時間を取らないために疑義照会の内容を事前に病院と薬局で取り決めを行い、疑義照会を不要とするためのプロトコルが全国で作成され運用されています。

「疑義照会 プロトコル」で検索するとかなりの数がヒットします。

特に京都大学医学部附属病院の薬剤部が作成したプロトコルはみっちり作ってあります。⇒疑義照会簡素化のプロトコル

 

ただ仮にプロトコルを薬局側が作ったとしてもそのプロトコルの了承を病院から得る事がおそらく一番のハードルだと思います。

医師の数が1人や2人の病院ならば直談判するのも可能かもしれませんが、もし医師の数が多く、そもそも疑義照会不要のプロトコルを誰に提案すればいいのか?そもそも疑義照会不要のプロトコルの内容を受け入れてくれるのか?等のハードルがあります。

 

薬剤師に権限を与えなくない人もいる

軟膏10g1本を5g2本で処方したり、5枚入りの湿布7袋を7枚入りの湿布5袋をする事に反対する医師は少ないと思いますが、この権限を薬局薬剤師に与えてしまうと薬剤師によって医師の職域が侵されると考える方々もいます。

 

と言うよりもそれらの批判を避けるために全国的に行われている疑義照会不要のプロトコルが全国的に統一されずに個別に行われている理由でしょう。

個人的には一般名処方では普通錠からOD錠への切り替えや、値段が同等以下ならば10㎎1錠を5㎎2錠の変更も自由に行えるほど自由度が高い一方で、グラクティブをジャヌビアに変更できない現状を考えると、この辺の整合性が取れていない事に疑問を感じてしまいます。

 

不毛な疑義照会を減らすためにはどうするべきか

不要な疑義照会がなくなるメリットは大きい

今更ですが不要な疑義照会がこの世からなくなるとメリットは結構大きいですよね。

患者を待たせる時間も減りますし、医師はもちろん病院スタッフの時間を取ることも減り薬局薬剤師も余計な時間を取られずに済みます。

個人的にもいわゆる不毛な疑義照会を行って疑義をしようとすると患者から「そんな事で電話するの?時間がかかるならそのままでいい」と言われた事も1度や2度ではありません。きっと世の中の多くの非医療従事者は一包化すら勝手に行えない事を知る由もありませんからね。

 

そして余計な疑義照会が減る事で本当に必要な疑義照会が浮き彫りになる事はこの上ないメリットだと思うんです。

 

正直「疑義照会=薬局からのくだらないクレーム」の様に感じている医師からも、本当の意味で疑義照会が行われることで認識は大きく変わってくるでしょう。薬局は不要と言われる元凶の1つにやはりこう言う点も少なからず影響していると思うんです。

 

疑義照会不要プロトコルを薬剤師会が作って勝手に公表すればいい

今後もくだらない疑義照会が行われる状況を変えるためにはどうすればいいのかと考えたんですが、日本薬剤師会が勝手に疑義照会不要のプロトコルを作って勝手にHPに公表すればいいと思うんです。

 

そもそも薬剤師だけでなく、医師の中にも疑義照会不要のプロトコル自体を知らない人や、疑義照会簡素化のプロトコルを作成するのが難しいと言う意見もあると思います。

 

だからこそ疑義照会不要プロトコルを勝手に薬剤師会が作ってしまえばいいんです。もちろん全部が全部、自分の地域の医療機関に当てはまるのは難しいと思いますので、各々で取捨選択してカスタマイズして利用すればいいと思います。

 

ただ問題になるのが「そんなことをすると(医師会に)角が立つのでは」と考える点ですが、むしろそうなった方が良いと考えます。

 

理由としては繰り返しになりますがこれを機に疑義照会不要のプロトコルを広めるチャンスになるからです。もしこの件に口出しされた場合は各地域の薬剤師会内でも話題になりますし、これまで疑義照会不要のプロトコルを知らない薬剤師にも話題として情報が届きます。中には情報を耳にする医師もいることでしょう。

 

医師会のお偉いさん方は「けしからん」「医師の職域を奪う行為だ」と憤慨するかもしれませんが、現場であせくせ働く医師からするとどう考えても医師の職域に踏み込むものではないと理解するはずですし、むしろくだらない疑義が減って助かると考える方が多数派でしょう。

それにすでに全国的に多くの医療機関がこれを了承して実践しているわけで、それを今更「医師ノ権利ガー」と言った理由で反古できるとは考えにくいです。どれだけ自分たちが現場の意見と乖離しているか確認するいい機会ともいえるでしょう。

 

だからこそ薬剤師会が「勝手」に作って公表し、それを各薬局や地域の薬剤師会が「勝手に」利用して、そこに医師会が絡んできたらむしろ万々歳です。

 

つまり疑義照会不要のプロトコルを薬剤師会が公表する事はどっちに転んでもメリットしかありません。薬剤師内でも不要と思えばスルーすればいいだけです。

 

しかし残念ながら現場の意見とお偉いさんの意見が乖離しているのは医師会だけでなく、もしろ薬剤師会の方が顕著の面も多々あります。

だからこそ結局この件に関しては個々の地域単位で動くしかないのかなあと思います。