コラム

かかりつけ薬剤師で薬の一元管理の普及は無理だと思う理由

 

2020年度診療報酬改定に限った話しではありませんが厚労省は患者の立場になって物事を考えているのではなく、目の前にある診療報酬改定のバランス重視です。

 

例えばDIオンラインの記事には

手帳を持たない患者、手帳を持っていても3カ月以内の再来局ではない患者に対しての薬歴管理料は57点となり、改定前と比べて4点の引き上げ。結果として、手帳ありとなしの場合の点数の差が、現在の12点から改定後は14点となり、患者にとって手帳を持参する動機になりそうだ。引用:薬歴管理料の手帳ありは2点アップ

 

と書かれていますが本当にそうでしょうか。

薬局は調剤基本料が安いよりも利便性が重要

仮に調剤基本料が14点分安くなるとしても3割負担なら40円、1割負担なら10円です。0割負担なら0円です。

 

そして高齢化が進むにつれて移動手段は限られます。バスやタクシーを利用する人にとってはわざわざお金をかけて自分のかかりつけの1つの薬局に通う事は大してメリットではありません。たかだか数十円安くなるために数百円かけて移動する人は多分いないと思います。

極端な事を言えば14点全額自己負担になってもバス代の方が高い可能性もあります。バス代が無料でも数十円のために体力と時間を消費するのは現実的ではありません。

それに今の高齢者に限らず病院を利用する人にとっていかに病院受診から近くの薬局で薬を貰い、月に1度の「病院の日」が一か所で完結するメリットは他にはないんですね。

 

中には「信頼できる薬剤師がいる(かかりつけ薬剤師)から薬局は1つに決めている」と言う人もいるかと思いますが、今後高齢者がさらに増え移動手段が制限される中において、わざわざ医療機関近くにある薬局を避けて1つのかかりつけの薬局に行く人が果たしてどれだけいるでしょうか。おまけに薬剤服用歴管理指導料は高いお金を払うことになります。

結局今後も多くの人が考えるのは「いかに早く薬を貰って帰れるか」これが最も重要視されると思います。

 

厚労省はかかりつけ薬剤師で薬の一元管理は本当に可能と思っているのか

国は患者側にインセンティブを付けたり薬局側にインセンティブを付けたりまさに迷走中です。この2つにインセンティブが両立するはずがないんですが、小手先の点数をいじって何となく同じ方向性を目指している風に見せるのは常套手段ですよね。

 

でも思うんです。いつまでもこんなことをやっていたら本来の目的である「薬の一元管理」がいつまで経っても実現しません

だからこそ言いますが患者・薬局にインセンティブを付けたりペナルティを課すのは諦めるべきなんじゃないかと思うんです。

 

国はかかりつけ薬剤師を算定させることで薬の一元管理を進めようとしています。

そして確かにかかりつけ薬剤師の届け出・算定数自体は増加傾向にあります。

 

ただ2018年に公表された厚労省のデータによれば

特定の患者を継続して担当する薬剤師のうち、かかりつけ薬剤師指導料、かかりつけ薬剤師包括管理料を算定している薬剤師数

と言う問いに対し最も多いのが1人の41%、次点で0人の28%になります。

参考:かかりつけ薬剤師・薬局に関する調査 報告書

 

これはつまり何をさしているのかと言いますと、本当の意味でかかりつけ薬剤師を行い、そして加算を算定できているのは薬局に1人もしくは0人が7割を占めるということです。

 

するとかかりつけ薬剤師を算定している薬剤師はいつでも電話対応できるように24時間体制のための電話番号を伝えたり勤務状況を伝える必要があります。そしてそれを担っているのが薬局のおそらく管理薬剤師・数少ない常勤薬剤師になるでしょう。つまり個人の負担がかなり集中している可能性がある、普及は限定的だという事です。

 

また薬剤師の職場は女性が多い職場になりますので、かかりつけ薬剤師をこのまま推進するならばいずれパート薬剤師はかかりつけの算定要件を満たさない事も多く、必然的に市場価値は下がってしまい、場合によっては短時間勤務では肩身の狭い思いをする人も出てくるかもしれません。

そもそも24時間対応だったり勤務表を患者に渡したり子育て世代の女性への冷遇など薬局業界完全に時代錯誤です。

 

それに問題なのがかかりつけ薬剤師を算定しておきながらかかりつけ機能を一切果たしていないエアかかりつけ薬局が存在する事。どれくらい存在するか分かりませんが「薬局を選ぶのは結局患者の判断次第」と言う盾の下、一旦加算を算定したら以後取りっぱなしのこの制度にはそろそろメスを入れるべきです。そもそもかかりつけの算定をボーナスの査定にしたりノルマにする現状がある以上、性善説で算定を行うのは無理でしょう。

 

薬の一元管理を行うために投資を集中させるべき

と、ここ数年の流れを見てきて改めて思うことは薬の一元管理は1つの薬局が担うべきと言うのは現実的に難しいため、せめてかかりつけ薬剤師でなくかかりつけ薬局を推進した方がまだ薬の一元管理の普及に貢献できるのではないかと思うんですが、すでにあらゆる加算の要件に「かかりつけ薬剤師指導料の算定」が組み込まれている以上、これを覆すのは難しいでしょうね。

今更「やっぱり難しいのでやめます」とはなりませんし、むしろかかりつけ薬剤師の点数が右肩上がりの現況を見るとこのまま突き進むことでしょう。

 

ただ本当に国民の事を考えて薬の一元管理を推進するならば本気で取り組まないといつまで経っても絵に描いた餅でしかありません。

それならばもう1つのかかりつけは諦めて同じ薬を一元管理する方法、例えばお薬手帳の普及で薬の一元管理を徹底的に行う方針に振り切った方がいいのではないでしょうか。

 

なぜお薬手帳かと言えば厚労省がとったアンケートに「患者が服用している医薬品に関する情報の収集手段としてお薬手帳が98%、患者家族への質問が90%」と言う結果が出ており、依然としてお薬の情報はお薬手帳がベースにあるためです。2020年の診療報酬改定でもお薬手帳のあり・なしで調剤基本料に差を設けるほど重要視されています。

 

お薬手帳があれば仮にどの薬局に行っても薬の重複確認もできますし、もし災害時でも紙のお薬手帳の普及と合わせて電子的な情報としてバックアップが取れる体制ができていれば不測の事態にも対応できます。

 

そもそも同じ薬局を利用してもらうためにちょこちょこ加算を付けていますが負担額である7~10割は医療費です。現在の処方箋枚数が8億枚を超えているのでたかがだか数円でもかなりの額になります。

 

もちろんお薬手帳でなくても構いません。何かしらの薬の情報が共有できるシステムを作る方に全振りする方が今後余計な加算を付けなくても済みますし、本当の意味での薬の一元管理が現実的だと思うんです。

 

 

と、薬の一元管理について2020年度の診療報酬改定から思った事を書きましたが薬の一元管理は何のために行うかと言うと患者のためと言うのは言うまでもありません。

でも本当は医療機関のため・医師のためでもあるのに、どうしてこう薬局単体の問題として診療報酬改定で影響を受けるのか個人的には疑問に思います。