コラム

日本病院薬剤師会の出した薬学部実務実習の対応がひどすぎる件

 

日本病院薬剤師会が出した薬学生における実務実習における対応があまりにもひどいので紹介します。

それは新型コロナウイルス感染症による病院実習の対応について として病院薬剤部門の長宛てに4月9日に出された通知です。

 

内容を簡単に言えば「現状、従来通りの実習が行えないため代替え案としていくつか提示させてもらいますよ」と言った趣旨になります。

 

そしていくつか代替え案が紹介されているんですが【実習が22週に満たない学生への配慮】としてこんなことを言っているですね。

日本病院薬剤師会としては病院実習 11 週をなるべく満たすことを優先する。 以下は、現段階で提示できる案であるので、工夫して実現することが望まれる。

 

まさか日本病院薬剤師会の意向として実習優先と言う言葉が出るなんてかなり異常だと思います。

通常なら学生及び患者医療機関への配慮を優先してその上で出来る限りの実習を行う、とすべきだだと思いますがストレートに「実習を優先する」なんて言ってしまう所に怒りを通り越して驚きです。

 

まあそれはさておき、さらに驚いた事がこちらです。

実習が22週に満たない学生に対して「現段階で提示できる案であるので、工夫して実現することが望まれる」とする内容の中に「予定されていなくても、急遽ふるさと実習に切り替える」と言う案があります。

 

どうも「ふるさと実習」とは学生の故郷で行う実習らしいのですが、その際には学生が感染しているといけないために以下の事を推奨しているんです。

「現時点では、移動後2週間自主 隔離し、コロナ感染症が発症しない時とする。今後、PCR 検査や簡易検査が一般的に可能となれば、それらを活用しても良い。」

 

この発想は現場で働いていない医療従事者ならではの考えだと思います。いや、今どき医療従事者でなくてもこんな発想は生まれません。

 

都市部の大学の学生が地方に帰って家族に感染させるリスクを1ミリも考えていませんし、学生が100%感染していない前提で全ての物事の話を進めているとんでもない思考です。

ただでさえ疲弊している都市部の医療機関をさらに地方の医療機関まで拡大させようとするリスクすら考えられます。

 

また「PCRが一般的に可能となればそれらを利用してもいい」とも言っていますが、これってつまり「体調は全然悪くないけど実習に必要なんでPCR検査受けさせてください」といった流れを全面的に支持すると言う事になりますがよくこんな事が言えますよね。

これが医療機関、薬剤師の代表である日本病院薬剤師会の発言と分かれば相当恥ずかしい、バッシングの中心になってもおかしくないレベルだと思います。

 

もしこれが100歩譲って2月上旬とかに出された通知ならばまだ分かりますよ。でもこの通知が出された日は4月9日。緊急事態宣言が出された後です。世の中の流れがどういった状況にあったかを考えればこの通知がどれだけひどいものか理解できます。

 

ただ仮に自分が学生の立場で「無理にでも実習をやれ!地元に帰ってでも実習やれ!」と言われたら多分実習する事も考えてしまうと思います。

と言うのも5年次までの学費を払って、ここで実習が自分だけ出来なくなっても当然退学するわけにもいかず、かと言って留年して学費1年分無駄にすることはできません。それならば実習を何としても受けようと思う人は多分少なくないと思います。

 

実務実習でまれに遅刻する・態度が悪い等で問題になる学生もいるそうですが、基本的に学生は弱い立場です。6年間の5年次まで進んでいるわけですから「実務実習の山を乗り越えてあとは国試だ」と言う意識の人も多いでしょう。

そんな場面で多少無理を言われても天秤にかけて実習を取る人も一定するいるはずです。そしてそれを見て実習を取る人も増えるでしょう。こういったサイクルを生まないためにも日本病院薬剤師会の対応は完全に間違っています。

本来実習は教育の中の一環です。

渦中の状況を実習生として学ぶ事に意義があると感じる人も中にはいるかもしれませんが、最大限尊重されるべきは学生の安全であるべきであり、口が裂けても「日本病院薬剤師会としては病院実習 11 週をなるべく満たすことを優先する。」なんて言ってはいけないはずです。

 

文部科学省は

大学等において、臨時休業や出席停止の指示等を行う場合については、単
位認定、卒業及び課程の修了の認定又は学位の授与等に関し、補講・追試の
実施やレポートの活用による学修評価等を通じて弾力的に対処することで
学生の進学・就職等に不利益が生じないように配慮すること

 

としています。

薬剤師国家試験の受験資格は薬学部の正規の過程を修めて卒業し、そして始めて受験資格が得られます。ただし今回の件によってその「正規の過程における実務実習」が行えない可能性があり、つまりは薬剤師国家試験の受験資格まで直結してしまう可能性があります。

しかし上の通り当然ですが絶対に実務実習を行わない限り薬剤師国家試験の受験資格はないとはしていません。

 

ですからもし本当に学生の立場を考えるのであれば、実務実習で行えなかった分を代替する線引き・および内容の吟味の議論を行う事が先決であり、そこに知恵を絞るべきだと思うんです。それを放棄して実習優先で行えと言うのは完全に間違っています。

確かに実務実習は各医療機関に一任しているためそれを大学と連携を取って行うのは大変な事かもしれませんが、個人的には5カ月は実習に行くのに学生からは学費1年分(私立なら約200万円)徴収するんですから、こういった時ぐらいは対処しても良いと思うんですよね。