「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」がスタートしました。
「薬剤師養成検討会」にツルハ後藤常務が参加、JACDSが実業の立場から
今回具体的な検討事項が大きく以下の4つが検討されています。
・薬剤師の需給調査
・薬剤師の養成
・薬剤師の資質向上に関する事項
・今後の薬剤師のあり方
そして個人的に特に気になったのは
薬剤師は臨床を経験するために実習期間を伸ばすべき・卒後研修を行うべき
と言う主張です。
色々気になるテーマなんですが今回はこちらに焦点を当てて見ていきたいと思います。
そもそもこの「臨床経験のために実習期間や卒後研修に言及する」と言う主張は順番が逆だと思うんです。
もちろん個人的にも今の薬学・薬剤師教育が問題はなく完璧だと言うつもりはありません。場合によっては卒後研修や実習期間の変更に関する議論が起きても良いと思います。
しかしそれならばまず解決すべき問題は何なのかを明確に議論すべきです。
例えばCOMLの山口さんは
「現在の薬学部の実務実習でどの程度の成果が得られているかを疑問視」としていますが、何を疑問視しているのかさっぱり分かりません。
もちろんまだ議事録が出ていないためどこまで突っ込んだ話しがされていたのか分かりませんが、少なくとも公表されている情報を見る限り現状の薬剤師の資質に関して具体的な指摘を行っている記載は1つも見えません。
そしてその流れで「何だか問題がありそうだけど取りあえず実習の時間を増やせばいいよね」ってどう考えても無理があります。
それならばまずは薬学教育と臨床との乖離を徹底的に議論し、それを解決すべき手段として実習期間や卒後研修について議論すべきでしょう。これらを放置して結論ありきで「スチューデントだ!卒後実習だ!」と議論を進めても何の意味もありません。
この調子でいくと再び数年後に似た会議があった際にほぼ間違いなく「薬剤師の資質が問題である」と同じ議論を繰り返します。
だって本当に解決すべき問題が何か分かっていないんですから。
でもこれって最近では「よくある事」です。
「何となく薬剤師はダメだ」論だけが独り歩きして、その時出席した委員の主観だけで議論が進んでいくのは、先の薬機法改正の際の制度部会でも顕著でしたよね。「医薬分業のメリットが実感できない」と言いたい放題でおまけに診療報酬改定にも影響を及ぼしました。
そもそもこういった議論におていは一応「議論」の体裁を保つために、当然賛否両論があるように意見が偏らない必要があると思うのですが今回の議論に関しては目に見える範囲では反対意見は出ていません。
むしろそんな中で信じられない発言も飛び出しています。
それは大阪薬科大学の学長の発言です。以下の様に発言しています。
医学部では1年半にわたる臨床実習があるのに対し、薬学部の実習期間が短いのではないかとの懸念を示した。「臨床を経験しなければ、今後薬剤師が担う対人業務はできない」と話した。
この発言って普通に考えて信じられません。
いやいや、あなた方大学の人間は率先して反論すべき立場の人でしょう。
そもそも6年制に移行した理由が薬剤師の質を向上させるためだったのに(表向きは)、6年制に移行して10年以上経ちますが「薬剤師が担う対人業務はできない」と大学側の人間が言ってしまうのは控えめに言って大問題だと思います。
言葉は悪いかもしれませんが実務実習は現場に丸投げです。薬学生に実習を介して指導しているのは現場の薬剤師になります。そんな中で「実習期間が短い」「臨床を経験しなければ、薬剤師が担う対人業務はできない」なんて言ってしまうのは、何より現場で学生を指導している薬剤師に対して失礼でしょう。
それに大学側は「せっかく6年制になったけど臨床に貢献できる教育は全く出来ていない」と言っている様なものであり今後も無理と言っているのと同義です。
本来ならばその改善に注力するのが大学の役割であり、今の薬学教育に問題があると言う自覚があるならばそれを恥じるべきです。
薬学教育だって6年制になってからの実務実習がベストとは思っていないでしょうし問題は多々あると思います。だからこそ定期的に薬剤師が求められる知識と教育の乖離を埋めるためにコアカリキュラムの改定を行い、例えば昨今の在宅医療を見越して実習にバイタルサインを組み込んだりしているわけで、本来ならばそう言った身内の努力を薬科大学の学長として主張すべきではないでしょうか。
今回の議論で放置されている事があります。
それは現場の薬剤師です。当然ですが実習でも卒後研修でも教えるのはいつでも現場の薬剤師です。
簡単に実習期間を伸ばす、研修を行うとは言ってくれますがそれを実践する現場の薬剤師の負担も汲み取るべきだと思いますし、何より卒後研修をやりたいと思う医療機関が多いとは思えません。
と言うのも仮に卒後研修を実際に行うとしたら医師の研修医に倣って「労働者」の扱いになりますから当然給料が発生します。これは医師の研修医の給与に関する歴史があるため最低限の給料の発生は必須になってくるでしょう。
研修医は長時間労働に加えて月数万円の奨学金、社会保険にも加入できない環境から制度改定に至った歴史があります。
するといくら国の補助があるとしても、これまでお金を貰って教えていた病院側は今度は逆にお金を支払う必要が出てきますし、何より薬学部の実習生と卒後研修を教える現場の負担はさらに増す事になるでしょう。
それに学生側も卒業して薄給の研修生が義務付けられたらただでさえ奨学金の返済もある薬学生からすると病院薬剤師への就職は更に遠のくと思います。少なくとも自分が奨学金を借りていたら病院では100%就職しません、と言うかできないでしょう。
今回の議論は現場での教育が最も重要とされていますが、個人的には薬剤師国家試験を活用する方が最も効率がいいと考えます。
もちろん現場で学ぶ事は貴重な体験であり何事にも変えがたい経験が得られる事は否定しません。ただ国家試験での教育によって臨床との乖離を埋める事が他の医療従事者よりも比較的容易なのが薬剤師とも思うんです。
今回薬科大学の薬剤師国家試験の合格率や留年率や定員割れも議論されていますが、やはり薬学生の一番の関心事と言うか大切な事は国家試験でしょう。それならば国家試験と言う最も関心が向く事に即した「臨床と国試の乖離をなくす」事に注力する方が実際はかなり有効ではないでしょうか。
今回検討会を開催した医薬・生活衛生局は薬剤師国家試験を所管する立場にもあります。
それならば臨床に足りない部分を現場の医療従事者を委員として募り、そこで薬剤師に求められている職能や課題を挙げ、それを国家試験で補ったり実務実習のカリキュラムに組み込む方が遥かに効率がいいと考えます。
まあ今回の議論自体が結論あり気で進んでいる感が否めないので本当の所での議論は不必要なのかもしれませんけどね。