コラム

調剤後のフォローアップが義務化されて思うこと

 

9月1日に薬機法が改訂され調剤後のフォローの義務化が施行されました。

 

この法改正に至るまでに制度部会で喧々諤々の議論が行われましたが、結果としてこの法改正に至ったのはある意味厚労省の筋書き通りだったのではと思います。

そもそもこの法改正は「薬局が最低限の事しかやっていないのでどうにかしよう」と言うことが根源にあり、言ってみれば薬局全体の底上げのような意味合いが強く、議論に参加している医師会等からすれば格好のネタでした。これが「薬局は日頃からきちんと仕事をやっている。そんな議論は不要」となってしまうと意味がありませんからね。ただ結果として厚労省が最初に望んだ通りの流れになり調剤後のフォローが法律に盛り込まれました。

厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会)

 

つまるところ厚労省は在宅と調剤後のフォローにおいて我々が想像している以上に絶対に欠かすことのできない必須事項だと考えているんだと思います。そしてこれで薬局の機能として備わることになるんですから役所としてはとりあえず仕事は果たしたという感じでしょう。今回の法改正における制度部会以前からも調剤後のフォローを打ち出していますし、結果として調剤後のフォローが法律に明記されました。

途中医師会の院内回帰への主張や調剤後のフォローに加算をつける事は許さないといった主張がありながらも、うまい事のらりくらりかわしながら(かわしきれてない所もありましたが)無事落ち着く所に落ち着いたという印象です。改めて結論が分かった上で制度部会の議事録を見てみるとまた違った見え方ができると思います。こんなことを言うのもなんですがやっぱり官僚の方々は賢いです。

 

では最も気になる事の1つである「調剤後のフォローの対象者の定義」ですが、まあ何ともあいまいです。

おそらくこれは薬剤師会が公表した「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」に沿った形になると思いますが「対象者は薬剤師の専門性に委ねられている」と記載されています。おそらく厚労省との擦り合わせは行われているでしょうから対象者を明確にすることなくかなり遊びをもたせた形になっています。

「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」について

そしてこれはペナルティにおいても難しい面があると思います。実際に制度部会の医師会中川さんのやりとりで以下のようなことがありました。

法律に明確化されていても、薬剤師が決められた業務、機能を果たしていないとしますね。前回、聞きましたよね。もしその場合に、その薬局が何かペナルティーを科されるのかと。それはないというお答えでした。法令上明記しても、そういうものではないと。

とまあファジーな部分であるため指導が行われることがあってもレッドカードはもちろんイエローカードもどうなんでしょう。むしろ中川さんが猛反対した「将来的な加算に組み込まれる可能性」の方が高いと考えられます。例えば地域支援体制加算の要件の1つになるなんて事は十分に考えられるのではないでしょうか。法を理由に罰することはなくとも診療報酬でメリハリをつけて薬局の尻を叩く可能性は高そうです。もちろん純粋に厳しく罰する可能性もなくもありませんけどね。

 

 

今回の法改正を受けての個人的な感想は正直このレベルに収まって良かったという印象が強いです。もちろん調剤後のフォローによりさらに業務負担が増す事は間違いありませんし、場合によっては薬局がまた批難を浴びる可能性すらあります。

ただあの制度部会で薬局がボコボコにやられて「薬局は全然仕事をやっていないのがまかり通っている」と言う雰囲気の中にあったことを考えると例えば「かかりつけの薬局は退院時カンファへの出席が義務付けられる」と言った法改正の可能性もあったことでしょう。法改正でなくても診療報酬改定で大きな打撃を受ける可能性もあります。正味「診療報酬改定で集中率が○○%以上の薬局は調剤基本料が明日から○○に減点なります」とかの方がよっぽど脅威だと思います。

 

そして調剤後のフォローに関して言えばその際に調剤後のフォローは電話がメインになると思いますが、個人的には分割調剤をさらに活用する事も重要だと思いますし、これが発展するとまた一歩リフィル処方箋にも繋がりますので分割調剤の裁量をもっと薬剤師に与えてほしいと考えます。

 

またこれ機に薬剤師会として医療機関との情報共有において声を上げることも重要だと考えます。

実際薬剤使用期間中の患者フォローアップの中にも

「初回の来局時にあってはまず患者情報等を適切・的確に取得することが最も重要となる」
患者等から得られた情報を薬学的知見に基づき分析・評価の上、必要な対応を行う。」

とこれだけ「患者情報が必要」としながら薬剤師会が現状を知らないわけありませんよね。

 

制度部会で山口委員も

薬学的知見に基づく指導をしましょうと薬剤師法が改正になった前と後とで、薬局・薬剤師が手にしている資料は全く変わらないわけです。だとすれば、やはりそろそろ処方箋も病名を入れるとか、改善をしていく必要があると思っていますし、検査データを含めて、薬剤師が薬学的知見に基づく指導をするために必要な情報とは何なのかということをもう少し自ら発信していただく必要があるのではないかと思っています。

と言っていますがこの主張に大いに便乗すべきだったと思います。

日本薬剤師会は法改正を行う事で得られた患者情報を医療機関に報告する事がやりやすくなるとのことで主張していますが、薬局から医療機関への情報共有の流れだけ進めるのはどうなんでしょう。本来ならば医療機関との相互の情報共有は両輪でやる必要があると思います。そして調剤後のフォローのに関わらず処方箋上の情報だけで薬局に過度な事を求めるのは限界があることをこの法改正を武器にを主張していくべきです。

 

という事で決まった以上はどうしようもありませんのであとは薬局側の問題です。

もし調剤後フォローが加算の要件となった場合にかかりつけ薬剤師の様なノルマ制を課すことになったとしたらこの制度は死んだも同然なので、そこは大事にしていく必要があると思います。

 

またあれだけ参加した委員の主観で議論が進んでいきましたので、今後「調剤後のフォローの報告件数」における議論も当然起きてくると思います。ただそれは薬局全体ではなく個々の薬局の裁量になるので、それで再度「薬局は仕事をやっている・やっていない」の議論になることは時間の無駄になるので、その際には薬剤師会も毅然と対応してほしいと思います。

 

そしてそもそも最低限の仕事しかやっていないと非難されている薬局ですが、その最低限が「患者の健康被害に関する一連の調剤・服薬指導」をさしているのであれば、それ自体が最も意味がある事であることを公の場でガツンと言う姿を薬剤師は求めているのではないでしょうか。