以前ツイッターでお薬手帳は紙よりもスマホよりもカードタイプが良いとツイートしました。
今更普及もしないだろうし使ってるの見たことないけど、お薬手帳は紙よりもスマホよりもカードにするのが一番だと今でも思っている。
— 怒れる薬剤師 (@nextpharmacist) December 22, 2019
この件に対して色んな意見を貰いましたが改めてお薬手帳について書いていきたいと思います。
目次
紙とスマホのお薬手帳のメリットデメリット
そもそもお薬手帳は昔は存在していないツールだったわけですが、最近では「お薬手帳の持参によって点数が変わる」と言った診療報酬改定にも影響を与える程の市民権を得てきました。
そして現在お薬手帳の様式としては紙かスマホでの管理の2つに分かれると思います。
ではそれぞれのメリット・デメリットみていきたいと思います。
○紙のお薬手帳のメリットデメリット
・複数の医療機関に分けてお薬手帳を持っている人がいる
・災害時に持って逃げるのは現実的に厳しい
・紙なのでかさばる
・忘れる事も多い
・過去の服用歴の記載に限界がある
・どこでも内容が確認できる
・薬局ではほぼ100%発行してもらえる
紙タイプのお薬手帳におけるデメリットとしては各医療機関ごとに丁寧に使い分けを行っている方もいたり、持って来るのを忘れる事もあるため薬の一元管理が行えていないケースがあります。また災害時にお薬手帳を持って逃げる際に「果たして優先順位がそんなに上なのか」と言う疑問があります。
ただ紙の最大のメリットはどこでも確認・記入できるという点。
今後在宅医療が更に活発化すると思いますが、薬剤師が在宅を行う際にも即座に服用薬を確認できたり、どの薬局でも発行可能なので利用者の共通したツールとして広く使用されているのが紙のお薬手帳の強みでしょう。
○電子お薬手帳(スマホ)のメリット・デメリット
・複数の薬局が独自の電子お薬手帳を使用している
・災害時でも(ほぼ)忘れることはない
・かさばらない
・過去の履歴もさかのぼって閲覧できる
・薬局のスタッフにスマホを見せたくない(見せずに済むものもあり)
・登録が面倒
・対応している薬局が少ない
スマホのお薬手帳の最大のメリットはまず(ほぼ)持ち忘れる事がないと言う点です。
家を出る時に財布と鍵とスマホが必須の人も多いかと思いますが、日常生活で忘れるリスクが少ないものの中にお薬手帳の情報が組み込まれるのは非常に大きいメリットだと思います。また災害時でも服用中の情報が手に入ります。
ただ一番のネックは各社が独自のスマホアプリを開発している点。そして対応している薬局の絶対数が少ないために結局紙を使用するしかないと言う点になると思います。
電子お薬手帳が普及しない理由
普及させる気がない
世の中の大半のものがペーパーレスにシフトしている時代ですがお薬手帳に関してはかなり後進的だと思います。
ではどうしてスマホのお薬手帳が普及しないのかと言えば理由は色々あると思いますが、ひとつは今で言う所のペイペイやラインペイなどのキャッシュレス決済と同じ流れで、各社が独自のお薬手帳を開発した結果、企業を超えての薬手帳の本来の意味である「薬の一元管理」から遠く離れてしまった点。
またお薬手帳が本当に必要な高齢者にスマホでのお薬手帳は登録等のハードルが高い点。そしてスマホでのお薬手帳が利用可能な薬局が少ないため、結局「紙で持っておく方が一番いいよね」と言う流れになりつつある点。
そして何より「お薬手帳は薬局だけが活用するもの」と言った認識が未だに強く、医療機関を巻き込んだ普及ができない点にあると思います。
もちろん時代が進めばスマホが当たり前世代がやってきますが、あらゆることをスマホで済ませる世代が当たり前になるにはまだ先の話しになると思います。当分は紙のお薬手帳が多くのシェアを持っているのではないでしょうか。
ちなみに余談ですが日本薬剤師会がリリースしている「e-お薬手帳」と言うアプリがあります。こちらは薬の情報はもちろん、施設検索機能や処方箋画像を送信するための機能なども盛り込んだかなり手の込んだアプリとなっています。せっかくこれだけものを開発しておきながら活用されないのは勿体ないと思ってしまいます。
世間のお薬手帳の重要性は高くない
また世の中においてお薬手帳の重要性は結構軽視されている印象があります。
たとえば「手帳を当たり前の様に忘れる」「シールも貼らない」「2つも3つも持っている」こんな状況は珍しくなく、むしろ「毎回薬局でお薬手帳と言われてうざい」と思っている人も決して少数ではないでしょう。
その理由としてお薬手帳を使用することで薬の一元管理を行ったとしても、その恩恵を直に感じる人は少数派で、裏ではどれだけお薬手帳の活用で未然に防げた医療事故があったとしても表面にはそれらが出てくることが少ないため、お薬手帳の本当のメリットを感じる人が少ない事が挙げられると思います。
そうなってくるとわざわざアプリをインストールして登録を行い、それを活用していくと言うハードルは実はかなり高いのではないでしょうか。
カードのお薬手帳を推す理由
スマホの普及が行き届くのも時間の問題ですが個人的には紙でもスマホでもないカードタイプのお薬手帳が諸々考えるとベストではないかと考えますのでその理由を説明していきたいと思います。
無意識に忘れない事ができる
理由としては紙とスマホのデメリットを良い感じに補ってくれるため、お薬手帳は「意識改革を行って持ってきてもらう」のではなく「意識しなくても持ってきてもらえるもの」にシフトする事が可能だからです。
病院に来る人が毎回受診前に保険証を持ったか確認する人はそう多くないと思います。大抵が財布の中に入れて置いたり、バッグに入れていたり専用のカードケースに入れていると思います。
そしてそこにカードタイプのお薬手帳も入れておけばいいんです。
当然紙タイプの様にかさばる事もなく何より忘れてしまうと言う一番の問題を解決する事が可能です。もちろんスマホタイプでも代替え可能ですが、スマホの様に使用開始のハードルも格段に下がるでしょう。
また災害時においても財布かスマホを持って批難すると思いますが、カードタイプならば忘れる確率も各段に減りますし、専用の読み取り機を避難所に貸し出して利用する事もできます。スマホと連動させる事によって外出先でも薬剤の確認ができます。
そして情報を電子化する事によって単に服用中の薬だけでなく、たとえば検査データなどの情報も便乗して付け加える事も可能になれば、よりお薬手帳の情報量が増すことになると思います。
今更カードの普及は難しい
しかし今更カードのお薬手帳を普及させるのは相当難しいと思います。
なぜならカードのシェアが現時点でほとんどありません。個人的にも見た事はありませんし持ってこられても困ります。
またセブンイレブンでスマホのキャッシュレス決済を利用する人はこれから増えてもナナコカードを利用し始める人って多分いませんよね。すでに世の中のお薬手帳も紙かスマホかの2択になっています。
ではマイナンバーカードと連携して使用するのはどうでしょう。
ここの紐付けがされるとお薬手帳どころか保険証の提示すら不要になってくるでしょう。
ただ今度は便利さと引き換えに個人情報の問題が出てきます。
マイナンバーカードは個人のお金の流れの把握はもちろん、そこに医療情報まで付くとなればそれを扱う人間には相当なリテラシーと責任が必要になります。
ですから情報が増えれば増える程、マイナンバーカードの取り扱いは慎重になっていくと思うんです。そしてそのマイナンバーカードにお薬手帳の情報まで組み込めるのかと言われれば、これまたさらに慎重な議論が行われ結果的に導入されるとなっても先の話しになってくると思うんですよね。
ですからマイナンバーカードはもう少し時代が経てば現実的にも可能かと思うんですが、近い将来を考えた時には少し難しいかもしれません。
医療費削減のためにも国はお薬手帳に先行投資すべき
ではカードの普及は絶望的かと言えばそんな事もないと思います。
国が覚悟を決めてある程度予算をつぎ込めば良いと思うんです。
診療報酬でメリットをつける
もちろんカード導入の際にはそれなりの費用がかかると思いますが、薬の一元管理が今後可能になると考えたら十分元が取れる先行投資だと思うんです。
近年災害も非常に増えている日本ですが高齢化が進みいざ自分が飲んでいる薬の情報が何もないと言う状況に陥ってしまった時、お手上げ状態になるのを防ぐためにもこれも1つの災害対策だと思います。
では肝心の患者側が果たしてカードを使用するのか?という問題ですが、こちらは診療報酬でインセンティブを付ければいいんです。
キャッシュレス決済が徐々に普及している理由は「便利だから」と言う理由以上に「還元などのお得感」がある事だと思います。
しかしお薬手帳がキャッシュレスと違う点はキャッシュレスは還元のために予算が必要ですが、お薬手帳は診療報酬で誘導するならば予算はいりません。むしろ普及すればするだけ医療費削減です。たとえばカードでのお薬手帳導入・利用で数年間の期間限定で毎回○○円安くなるみたいなイメージです。
むしろ率先してこのキャッシュレス決済の流れに乗るべきだと思います。
結果損するのは薬局ですが薬の管理に関するいざこざが一挙に解決するとなると個人的にはぜひ導入して欲しいと思います。
そしてお薬手帳の情報を欲しているのは診察する医師も同じなので、上でも言いましたが医療機関も巻き込んだ流れを作るべきだと思います。
薬の一元管理を行うためにお薬手帳はやはり必須
もちろん昔と比べるとお薬手帳の役割は広く認識されてきていると思います。
そして医療従事者にとってはとても貴重な「情報」であり、こと薬剤師においては生命線であると言っても過言ではありません。しかしそれだけ貴重な情報を全て患者側にゆだねるのは限界があります。
最近では薬の一元管理のためにかかりつけ薬剤師の推進が行われていますが、はっきり言ってお薬手帳が完全に活用できれば、かかりつけ薬剤師はあってもなくてもいい制度だと思っています。と言うのも現状薬の一元管理の観点から言えばかかりつけの制度は決してうまくいっているとは言えないからです。また紙のデメリットは上でも挙げた通りです。
ですから誰でも労力を割くことなく簡便に導入できるカードタイプでのお薬手帳、そしてこの際カードでなくても構いません。
とにかく紙だけに依存するお薬手帳の薬はどこかでメスが入るべきで、一刻も早く本当の意味での薬の一元管理がなされるべきではないでしょうか。