コラム

薬剤師のコロナワクチン接種の支援が将来に繋がらない理由

 

新型コロナウイルスワクチンの接種に薬剤師が関与する事について諸々思う事があります。

 

当初薬剤師がコロナワクチン接種に関与する事を聞いて思った率直な疑問が「どうして日頃から注射の扱いに慣れていない薬剤師を活用するのだろうか」と疑問です。

このツイートの通りです。

そして薬剤師はコロナ禍においては医療従事者でありながら慰労金の対象外とされ、薬の配送に割く予算も実態はほぼボランティア同然の金額である等の対応をされながら、ワクチン接種に関しては薬剤師が積極的に駆り出されるのは「正直それってどうなの?」と思ったのも率直な感想です。

 

もちろんこれは完全な一個人の勝手な感想であり、ワクチン接種に個々の薬剤師が関与すべきではないと主張しているわけではありません。むしろ国を挙げての大プロジェクトにおいて薬剤師が参画することに関しては素晴らしい事だと思います。少なくとも善意で参加する人に対してあれこれ言う権利もないでしょう。

ただどうしても腑に落ちないことがいくつかあります。

 

例えば薬剤師会としてワクチン接種における関与を公にしない一方で、日本薬剤師会が行った「都道府県薬剤師会に対するワクチン接種における協力要請」についてです。

 

薬剤師のワクチン接種においての関与が完全に「個」であるならば何も言う事はありません。しかしどうやら薬剤師会としての「組織」としてのワクチン関与みたいなんです。しかし現状を見る限り現場の薬剤師の善意を薬剤師会が無条件で手柄として持って行っているような印象を受ける感は否めません。

 

もちろんワクチン接種に関しては仕方のない事だと思う面もあります。そしておそらく多くの人も「仕方ないよね」と考えるのではないでしょうか。

と言うのも「ワクチン接種に薬剤師が関与した」となれば否応なしに大多数の人はきっとこう考えますよね。

「これを機に薬剤師によるワクチン接種に一歩近づいた」と。

 

もしこの下心があれば薬剤師会が現場の薬剤師の善意を勝手に利用するのはある意味仕方のない事かもしれません。しかしどうでしょう。今の薬剤師会の動きを見る限りその可能性は限りなく低いと感じています。

 

それを裏付ける一番の決定打が記者会見での薬剤師のワクチン関与における医師会の歓迎です。これ、本来ならば医師会は「薬剤師がワクチンに関与するなんてけしからん」と突っぱねる場面です。しかし今回医師会は薬剤師の関与を「薬の取り扱いを熟知している薬剤師の支援を得られて大変心強い」とまで言っています。こんな事、これまでの流れを考えれば到底考えられない異常事態です。

 

ではどうして医師会は薬剤師の関与を歓迎したのでしょうか?「猫の手も借りたい状況だから」というのはもちろんあると思います。

 

ただ、おそらく薬剤師会が「ワクチンの接種なんて考えていないので純粋にお手伝いさせてください」と合意した、あるいは医師会が「薬剤師にワクチン接種の利権を侵す事は絶対にさせない」と余程自信があるからだと思います。

 

もちろんこれは完全に個人の想像なので本当の所は分かりません。

ただどう考えてもおかしなことがあります。

 

それは2月16日に医師会が会員に出した通知なのですが

基本型接種施設への支援について

 基本型接種施設における業務負担が大きいため、自治体等による支援体制の構築が不可欠です。日本医師会では他職種団体にも支援のお願いを交渉中です日本医師会 新型コロナウイルス ワクチン速報

 

と医師会が「他の職種団体に支援のお願いをする」と公表したものになりますが、その翌日には以下の通達がされています。

 

公益社団法人日本薬剤師会から、基本型接種施設等に対する各地域の薬剤師による協
力の申し出を受けました

各自治体で検討が進められているところですが、地域の実情に応じたワクチン接種体
制の構築に向けて、地域の薬剤師会への協力要請につきましてもご配慮ください。日本医師会 新型コロナウイルス ワクチン速報

 

つまり翌日には逆に薬剤師会から申し出があった事になっているんです。

 

一方、1月の時点で薬剤師会が都道府県薬剤師会あてに行った通達がこちらになります。

すでに一部の地域においては、市町村または郡市区医師会等から薬剤師会に対して協力要請が行われている模様です。貴会におかれましては、これら手引きで求められている内容につきご了知の上、地域薬剤師会に対し、市町村や郡市区医師会等から要請があった場合には協力いただくこと。

また、現時点で要請がない場合においても、各市町村の状況を情報収集いただくとともに、関係行政や郡市区医師会に対して、予防接種の実施体制の構築に関する働きかけを行っていただくよう、至急ご周知方お願い申し上げます新型コロナウイルス感染症に係る予防接種実施体制への協力について(お願い)

 

これらを見る限りでは日本薬剤師会は都道府県薬剤師会に「行政や医師会からの要請があるから協力して下さい」と身内に発信した一方で、医師会には「日本薬剤師会として協力させてください」とお願いをした構図になっています。

 

つまり日本薬剤師会は自分から医師会に強力しますと言っておきながら、身内の薬剤師には「国や医師会が決めた事だから手伝ってね」となるように対応しているんです。

これが今の薬剤会のズレた所であり医師会と波風を立てないがために行う愚行だと思います。

 

 

しかしながら結果として薬剤師会としてワクチン支援に参画する事が決まりました。

そして本来なら薬剤師会として今回を機に薬局でのワクチン接種を真剣に見据えるべきタイミングだと思います。不適切かもしれませんがこんな機会はめったに訪れません。

「薬剤師が個々で活躍してくれたら自然と評価される」なんて都合のいい話はワクチンに関してはほぼ不可能ですし、これまでの歴史を見れば言うまでもありません。

 

ただ今後このような事態が起きた時に「今薬剤師にできる事は何か」を考えたらやるべきことは決まってくると思います。

1つは剤師会が将来の薬剤師の在り方を見据え、全国の薬剤師に向けて旗を振ってこれらかの方向性を示すべきです

 

色々な立場があるため、あからさまな事は言えないかもしれませんが、紙切れ一枚の地域薬剤師会からの通達だけではモチベーションは上がりませんし正直「めんどくさい」と考える会員の人もいると思います。

だからこそ「これから薬剤師もワクチン接種において重要な役割を果たす時代です」と発信しこれからの方向性を示すべきではないでしょうか。

 

そしてもう1つのやるべき事として実務的な事になりますが「接種以外の全ての流れの情報を蓄積する」ことではないかと考えます。

「ワクチン接種」と一口に言ってもただ打って終わりではありません。受付から始まり問診や薬歴の確認やバイタルを測る等、接種後の容態の変化における対応まで含め本気で薬剤師単独でワクチン接種を担う事があるならばこれほど有意義な実践はありません。

 

これらの得られた情報を共有しあって、薬剤師独自のワクチン接種におけるマニュアルを完成させれば後は「接種のみ」となります。

まあこの「接種のみ」のハードルが高いのは言うまでもありませんが、接種以外のすべてを準備しているのとそうでないでは雲泥の差だと思います。

 

 

海外では薬剤師のワクチン接種が行われており、アメリカにおいては政府から直接薬局にコロナワクチンが届けられるというニュースもありました。

だからと言って「今すぐに日本も薬剤師がワクチン接種を」と言うつもりはありませんし、薬剤師の中にもワクチン接種を行う必要はないと考える人もいるでしょう。

それに善意でワクチン接種に関わりたい人にとっては「せっかく薬剤師として役に立ちたいと思っている中で政治的な問題を絡めてくるな」と思っている人もいるかもしれません。

 

しかし薬剤師会として申し出た以上、今後も都合のいい医療従事者扱いをされ、そのしわ寄せは末端である現場の薬剤師が一律公平に担う事になります。

ですからワクチン関与に積極的な人もそうでない人もひっくるめて、将来を見据えて前向きに薬剤師がワクチン接種に関与すべき理由を提供するのが薬剤師会の使命であると思います。

そして組織として手を挙げた以上、現場の善意に付け込むだけでなく「なぜ今薬剤師がワクチン接種に関わる必要があるのか」を発信し、それと同時に外にもアピールすべき薬剤師会の役割はとても重要だと思います

 

 

ただ薬剤師会が動く可能性は限りなくゼロに近いです。

過去の事例を見れば明らかで、例えば緊急避妊薬の市販化における薬剤師会の対応が記憶に新しいでしょう。あれだけ身内からの批難があっても変わらないのが今の薬剤師会の出した答えです。

 

 

という事で今のこの千載一遇のチャンスにおいて一切のアクションを起こさない薬剤師会は薬剤師のワクチン接種は考えてない事が明らかになりました。これもまた薬剤師会が出した答えなのかもしれませんが、本当にこのままでいいのでしょうか。