OTC・緊急避妊薬

緊急避妊薬をオンライン診療にしても無意味な理由

2019年5月31日にオンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会において緊急避妊薬のオンライン診療に関する議論が行われました。

引用:オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会

 

ただ結論から言えばオンライン診療での緊急避妊薬はアクセスの拡大には全く繋がらず、やっぱり医療機関を受診してもらう方が楽でしょ?病院を受診しようね!と言わんばかりの制度設計がされています。

今回はこのオンライン診療の緊急避妊薬について考えてみたいと思います。

 

オンライン診療で緊急避妊薬を貰うまで

まずはオンライン診療で緊急避妊薬を貰うまでの道のりです。

もし医療機関を受診するとすれば

医師の診察を受けて院内処方として緊急避妊薬を処方してもらう

これ終了です。1ステップで済みます。

 

しかしこれがオンライン診療ならば

相談窓口に連絡⇒オンライン診療⇒処方箋を薬局に郵送⇒薬局で薬剤師の前の前で服用

と複数の段階を踏まなければ薬を手に入れる事はできません。

 

特に意味が分からないのがオンライン診療になると院外処方になってしまい、おまけに薬剤師の前で服用しないといけないという事です。これにより精神的なハードルはさらに上がる事に加えて処方箋が郵送されるのを待つため当然時間がかかります。すると時間制限のある緊急避妊薬が間に合わない可能性も出てきてしまいます。

 

「もし近くに医療機関がないならば場所を問わないオンライン診療でも意味があるのでは?」と思われるかもしれませんが、近くに緊急避妊薬を処方してくれる医療機関がない場合はそれと同時に緊急避妊薬を扱っている調剤薬局もないと考えるのが自然になりますので、アクセスの改善にはつながりません。なにより現時点でのオンライン診療の普及率を考えればこれがいかに現実的な話しではないのか安易に想像できます。

ただし厚労省はそんな薬の在庫に関して「地域の医薬品供給に責任を持っている薬剤師、薬局の責任である」と発言しています。

 

そしてオンライン診療になった途端に緊急避妊薬の処方は産婦人科医もしくは研修受講医師にのみ処方可能になりますので、ただでさえオンライン診療のメリットに乏しい医療機関からするとわざわざ率先して緊急避妊薬のためにオンライン診療の設備投資を行ったり研修を受けたりして体制を整えるのか甚だ疑問です。

 

医療機関で緊急避妊薬を貰う方が安心なのか

ではそもそも医師が医療機関で対面で診察するのがどう考えてもベストなのでしょうか。個人的にはそうとは言えないのではないかと考えます。

 

そもそも今回の議論でオンライン診療で緊急避妊薬を処方できるという事は、対面で診察する必要性は必ずしも必須でないと証明した形になります。

 

それに現状ネットで緊急避妊薬を手に入れようと思えばいくらでも手に入る状況です。これは緊急避妊薬を海外から個人輸入として入手する形ではなく、日本にあるクリニックや医院から電話やウェブ上で購入する事が可能となっています。(「ノルレボ 通販」などで検索してみるといくらでもヒットします)

もちろんそこでは対面ではなく薬の郵送までセットで行っており、ご丁寧に金額の提示もしてある医療機関まで存在します。

 

また今回の議論でもこういった発言がありました。

実際に東京のオンライン診療する医療機関に鹿児島の方がオンライン診療する場合、それは一瞬で終わりますけれども、処方箋を送って鹿児島の方が本当にそれを受け取って72時間以内に適切に薬局に行って薬をもらえるかというと、なかなか難しいので

オンライン診療だと一瞬で終わるそうです。

 

これらの現状や認識は緊急避妊薬は絶対対面である必要性がないことを証明している事になると思います。

 

緊急避妊薬を貰いに医療機関を受診しない理由

「どうして緊急避妊薬を貰いに医療機関を受診しないのか?」と言う問題に向き合う事、これが望まない妊娠を防ぐための最重要かつ必須なことに繋がると思うのですが、これをスルーして解決策としてオンライン診療が議論に上がりました。

けどこれはおかしな話しです。

と言うのもどう考えても多くの人が緊急避妊薬を求めて医療機関を受診しないのは医療機関を受診するハードルが高い点だという事は明白だからです。

そこには単純に医療機関を受診するという行為だけでなく

産婦人科に入るハードル
待合室での周りの目線や医療スタッフの目線
実際の診察への不安
開局時間の問題
薬があるのかの不安

様々なハードルがあるため医療機関を受診しないのだと思いますし、そんな事は大多数の人も分かっているのではないでしょうか。

 

ただ今回の議論において参加者の1人である山口構成員が「受診に精神的な負担がある場合もオンライン診療を可能にしてはどうか」と言う意見を言いましたが見事反論されています。ではここで具体的な反論理由を紹介します。

今村構成員「オンライン診療でも結局3週間後には産婦人科を受診するので同じこと。また精神的な負担での場合も可能にすると緊急で薬が必要ない人も出てくる」

前田参考人「まず性の知識を一般の女性に普及させるほうがいい。それにこれから女性医師も増えてくるので精神的な負担も下がる」

島田構成員「オンラインだと3週間後の受診に行かなくなってしまうのではないか」

黒木構成員「オンライン診療でも精神的な負担を軽減するエビデンスはない」

 

緊急避妊薬の話題は炎上するしかない

緊急避妊薬に関してはSNSなどを利用した海外からの輸入品や譲渡があったり、最近ではフリマアプリを通して販売されていることが問題視されており厚労省の見解でも

日本におきましては、人工妊娠中絶が年間16万人に上る現状でございまして、避妊の手段として、緊急避妊薬が処方薬であることや入手しづらいことについて、これまで議論が繰り返し行われてきました

と述べていることからも、やはり入手ハードルが喫緊の課題である認識はあるのでしょう。しかしこのことに関しては目を向けずに形だけのオンライン診療で手を打とうとしている状況です。

 

そもそもどうして医療機関だけで緊急避妊薬を扱うのではなくこの様な議論を行っているのかと言えば16万件をこえる人工妊娠中絶をどうやって減らす事ができるのか?と言う課題があるからです。

そしてその課題は医療機関への受診ハードルと言っても過言ではありません。もちろん緊急避妊薬の存在自体を知らないケースも多いかもしれませんが、普及してないからこそ知られていない場合もあるでしょう。

 

だからこそこの緊急避妊薬を取り巻く話題は炎上するしかないと思っています。

パブリックコメントを募集して圧倒的に緊急避妊薬を市販化すべき意見が集まっても結局ほぼ意味がありませんでした。ただ今の時代、物事を強く主張する方法として炎上するのが最も影響があるものの1つだと考えます。炎上しあらゆるところで議論が行われ、それにより本当の問題に向き合い少なくとも今よりは良い結論に向かうと思います。

 

もちろん「患者のため」を盾に議論すれば対面に越したことはないのかもしれません。しかし現状を鑑みてこれが多くの女性にとってもベストなのでしょうか。個人的には緊急避妊薬は対面以外は認めないという、結論ありきな議論が進んでいるとしか思えません。