コラム

リフィル処方箋は薬局にとってもデメリット

2021年の最後にとうとうリフィル処方箋の解禁が決定しました。

今回のリフィル処方箋導入を受けて薬剤師の間でも賛否両論ありますが、比較的歓迎意見の方が多いですね。

そして同時に「病院や診療所に対して大きなダメージ」と言った印象を持っている人も多いと思いますが、リフィル処方箋が導入される最大の目的は1つ。医療費削減です。

 

高齢者の医療費が無料だった時代にはリフィル処方箋のリの字も議論されなかったはずですが、2022年度の診療報酬改定で医師会の反対を押し切りリフィル処方箋が解禁になるのは医療費の異常な伸びに歯止めがかからない事と現役世代の数が足りないために財源が確保できない事が理由になります。

ですから忘れられがちなんですが薬局だけリフィル処方箋が導入されても経営的に無風と言う事はまず絶対にあり得ません。

薬局経営にはマイナスのリフィル処方箋

例えば薬局の利益として調剤基本料や薬剤管理料に加えて各種加算があるわけですが、これら全てをひっくるめてA点が算定できるとして、じゃあリフィル処方箋が導入されたかと言って仮に90日分を30日×3のリフィル処方箋にした場合にA×3の算定がまるっと可能になるように設計されるとは正直考えにくいです。

どうして考えにくいかと言えばこのパターンだと医療費削減に一切関与しないためです。(薬剤師の関与で副作用を汲み取る事ができる等と言った点はさておき)まあ先の分割調剤を見れば想像が付きますよね。

むしろそれならばそのまま90日の長期処方で出してもらった方が医療費削減につながります。

 

つまり薬局側から見ても30日処方で毎月薬局を受診してくれる方が一番経営的にはプラスになる事は揺るがないんです。そして毎月受診がなくなる事はそのまま薬局の利益に直結します。

もちろん政策の基本として導入初期は飴をたらふく与える可能性もありますが、いずれはしごを外される事は既定路線でしょう。

そして門前薬局や敷地内薬局はこれまでは病院の近くと言う最強のアドバンテージを持っていたわけですが、リフィル処方箋が導入されるとわざわざ病院の近くの薬局に行く理由はありませんからダメージは大きそうです。

 

リフィル処方箋の本当の目指すところ

そもそもリフィル処方箋に対しての議論において

30日×3(リフィル)と90日処方(長期処方)は何が違うのか?

と話題に上る事がありますが、ぶっちゃけ国としてはもしこの2択であるならば90日の長期処方の方がベストに決まっています。だって一番かかるコストが安いわけですから。

ですから問題は「長期処方をリフィル処方箋で対応させる事」ではなく「現在毎月受診している人を長期処方(リフィル処方箋)にする」ことが最大の目的となります。

 

これにより再診料や処方箋料、あるいは無駄な検査をなくしておまけに薬局での医療費も減らしトータルで医療費を削減する事がリフィル処方箋の最大の目的です。

言ってしまえばリフィル処方箋と言う名の下の長期処方を期待しているんですね。

 

ですからターゲットとしては国が90日処方か120日処方かいずれをモデルケースとして定めているかは分かりませんが、仮に90日処方をモデルとするならば、これまで毎月受診していた人でもリフィル処方箋を活用して90日に1回の受診で済むように誘導する必要があります。

現実的な数字を考えるならばリフィル処方箋の黎明期は「再診料+処方箋料+α」分は補填できるかそれに近い設計を行いつつ、それでも医療費全体を見た時に毎月受診よりは医療費が削減できるラインを設計すると思います。

 

リフィル処方箋が進まない可能性も大きい

リフィル処方箋の導入は医師会の猛反対は根底にありますので、いくら導入が決まったからと言って医師会を完全に無視するとは当然考えにくいです。

もし病院やクリニック等の医療機関側が強制的にリフィル処方箋が適応されるシステムが作られると有無を言わせず経営に大打撃になりますので、おそらく医師側に大きな裁量を残した形でのスタートとなると思います。それにそもそも毎月受診をやめて長期処方にする判断をするのは医師なのでいくらでも裁量が効きます。

ですからどのタイミングかは分かりませんがリフィル処方箋の方がメリットが大きい様に、いつか取り上げることを前提とした飴を用意していくと思います。

 

ただこれはあくまで国が本気であるパターンの話で、現実は名ばかりリフィル処方箋の可能性はかなり高いと思います。

と言うのも予算ではリフィル処方箋で0.1%分の医療費削減と言っていますが、現時点では不確定要素が多すぎて結果的に医療費微減とするのは、いくら頭のいい官僚が弾いた計算だとしても正直現実的はないと思うんです。0.1%と言う数字も表に出る最小の数字になります。それならば分割調剤に毛が生えた程度で「何もしない」と考える方が現実的かもしれません。

リフィル処方箋の導入で薬局薬剤師はどうなるのか

まあそんな事を言っていては話が終わってしまうため、もし本当の意味でのリフィル処方箋が機能し始めたら薬局薬剤師はどうなっていくのかを考えたいと思います。

 

よく「リフィル処方箋の導入によって薬剤師の責任は一層重くなる」と言う意見を目にしますが、個人的には従来と表向きは大きく変わらないと思います。

と言うのも服薬指導のタイミングで副作用が疑われたり何かしらの異常が見られた際に受診勧奨を行う等の判断や指導を行うのはこれまでと何ら変わらないためです。

ただしあくまでそれは表向きの話であり「特に変わりはありませんね。また同じ薬です」と言って薬を渡すのか、はたまた薬学的な知見から異常を汲み取るのかは個人の薬剤師の裁量に大きく差が生じるところだと思います。

ある意味リフィル処方箋導入に関係なくこれまで通り、個人の薬剤師によって医療の質が問われる事になるとも思いますが、少なくとも患者さんからは「薬剤師と言う医療従事者がなぜ必要なのか」と言う観点からまた違った見られ方をする重要なターニングポイントになってくるでしょう。

 

という事で制度や経営の面でのリフィル処方箋について考えてきましたが、きっと目先の利益を求める薬局からは「余計な事をしてくれるな」と思っているかと思います。手間は増えても利益は減る可能性が高いですから。ただ個人的にはリフィル処方箋は大賛成です。

と言うのも「リフィル処方箋は必要。薬剤師の職能を発揮するべきだ」とまでは言うつもりはありませんが、それ以前の話で今の薬剤師は処方箋における権限が圧倒的になさすぎると思います。

 

例えば医師の許可がなければ残薬調整ができない、先発から先発への移行も許可が必要、軟膏5g2本を10g1本に替えれない、意味のない後発品のメーカー指定等々。

本来の治療「以外」の部分の処方に関する医師の権限が圧倒的過ぎて、薬剤師としての権限の乏しさは大いに問題だと思います。何も「処方権を薬剤師にも!」と言う話ではなく、こんな既存の制度で誰が得するのかと言うだけの話です。忙しい診療の合間にくだらない事で疑義照会される医師側の立場を考えても不要な制度でしょう。

ただこれらのすでに決まっていることを覆すのは非常に難しく、何かしらの抜本的な改革が必要だと思います。

ですから今回リフィル処方箋の導入によって、どう考えても異常である医師の権限から処方箋を離す事は非常に意味がある事なのではないかと考えます。

 

という事で何の準備期間もないままリフィル処方箋がスタートしそうで、何も確定的な事は分かっていません。

ただ唯一間違いないのは来年以降には「リフィル処方箋を受けた時に必要な薬剤師のスキル」的な本が跋扈する事は間違いないでしょう。