「薬剤師は将来的に飽和する。おまけにAIやロボットにとって代わる職業だ」と言われていますが、薬剤師の職がなくなる事は100%なく、おそらく薬剤師の需要は大きく変わらないと思います。少なくともある時までは。
ただ給料面に関しては確実に減って良くと思いますので、今回は諸々含めた薬剤師の将来性について考えてみたいと思います。
目次
将来的に薬剤師の仕事は100%なくならない
規制でガチガチに守られている
2019年4月2日に厚労省は「調剤業務のあり方について」を告示しました。
いわゆる0402通知です。https://www.mhlw.go.jp/content/000498352.pdf
この通知には非薬剤師が行える調剤業務を明文化したものになりますが、ここで認められたのはPTPピッキングなどの簡単な調剤業務のみ。その他の軟膏や水剤などは明確に薬剤師法違反とされています。
薬剤師以外の者が軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、引き続き、薬剤師法第19条に違反すること。引用:調剤業務のあり方について
令和に突入した時代でも非薬剤師に認められることはこの程度しかありません。つまり薬剤師が行う仕事は法的にガチガチに守られているんです。
そうなると薬を扱う上で薬剤師の関与が不要になる範囲は狭く薬剤師がやらないといけないことばかりになります。
見方を変えればいわゆる既得権益ともいえるかもしれませんが、薬の安全性の担保においては単なる既得権益のためだけのものとは言えない面もあるでしょう。
ただし、この0402通知には
調剤機器を積極的に活用した業務の実施を妨げる趣旨ではない。
と含みを持たせていることから「薬剤師以外は行ってはいけないこと」を代わりに機械が行う可能性は決して低くありません。
薬剤師の仕事がAIにとって変わるのは部分的
最近よく「薬剤師の仕事はAIにとって代わる」と言われます。
そして薬剤師に限らず現在あらゆる職業がAIにとって代わると言われていますが、これに関してはもちろん薬剤師の職業もAIにとって代わると思います。
例えばAIによって個人の薬剤による副作用のリスクの度合いを判断したり、AIまでいかずとも薬の飲み合わせや用量用法などをチェックするためのIT化、そして調剤と監査を自動で行う調剤・監査ロボットの台頭によって薬剤師の仕事はかなり今とは違った形になるでしょう。
ではこれらの技術革新が薬剤師と完全にトレードされるのかと言えばかなり先の将来は分かりませんが、おそらく数年~数十年ではむずかしいと思います。
と言うのも服薬指導を行ったり麻薬金庫から麻薬を調剤するのはロボットでは認められることは多分ありません。
ですから調剤を担うのがロボットで代替えされることで1つの職場で必要とされる薬剤師の数は今よりも不要になるでしょう。しかしそれは部分的であり、AI化=薬剤師の職がなくなるというのは難しく、少しずつ徐々に薬剤師の業務の補助になってくるでしょう。
薬剤師の将来は不安ばかりではない
高齢化が進み薬剤師の飽和は大分先になる
「薬剤師の将来は真っ暗。いずれ飽和するのも時間の問題」とかれこれ数十年前から言われています。
ではこれからの時代はどうなのかと言えば、日本の高齢化が終焉するまでは薬剤師の飽和はないのではないかと思います。
というのも2015年時点では高齢化率(65歳以上人口割合)が2060年には約2.5人に1人が高齢者となる見込みです。参考:我が国の高齢者を取り巻く状況
ここで大事なことが単に高齢者の数が増えるのではなく高齢者の割合が増えると言う事です。つまり医療のニーズとしてはさらに需要が高まる一方で、むしろ供給する側の数に問題が生じる可能性があるということです。
また高齢化に伴い在宅医療の推進、ドラッグストア店舗数の伸び。そして薬剤師のセルフメディケーション推進など、薬剤師のニーズは高齢化に伴い増えています。
もちろん薬学部の数も昔と比べると格段に増え、今では毎年1万人の薬剤師が誕生しているため供給が増えているのも事実であり供給が間に合う可能性もあります。都市部は過剰になる可能性も結構高いです。
しかし全国的に見れば薬剤師業界に機械化の波が一気にやってこない限りは薬剤師の需要の方が当分優るでしょう。
薬剤師の需要と供給を語る上で外せないのは現在6万件近くある調剤薬局が激減する可能性です。約15万人いる薬局従事者の行方が最大の焦点になると思います。しかし在宅のニーズなどを考えると薬局の数は減っても1店舗当たりの薬剤師の数は増えるのではないでしょうか。
薬剤師のニーズは増えても給料は減る
ただ薬剤師のニーズが変わらないとしてもはっきり言って給料は減ると思います。
薬剤師の給料は診療報酬改定が握っていると言っても過言ではありませんが、これが将来的に右肩上がりになる可能性はほぼゼロです。そうなると薬剤師が働くことで得られる収入は減ることになると思います。
しかしこれまで通り薬局に患者が処方箋を持ってきて薬を渡して完結していたことが、今後は在宅医療の推進のため患者宅まで足を運ぶ事になり、薬剤師の需要はこれまで以上に高まってくるでしょう。
すると薬剤師が飽和して働く場所がなくなるのではなく、働く場所はあるが収入としては減っていくため、実質薬剤師の給料だけが減っていく状況になるのではないでしょうか。
構図としては待機児童がいるくらい需要があるのに保育士が不足しており、保育士の給料を上げる事が難しい状況に似ていると思います。
将来を見越した薬剤師ビジョンは実現できるのか
薬剤師に不透明な2つの将来
特に若いうちは「将来を見越した薬剤師ビジョンを考えましょう」と言われます。
しかしこのキャリアプランが明確であればあるほど、実現できる可能性は難しいと言えます。それはなぜかと言えば「先のことは分からないから」です。
ここで言う「分からない先のこと」は以下の2つです。
・将来的に薬剤師が求められること
・あなたの目指す薬剤師ビジョン
この2つになります。
例えば昔はドラッグストアはOTCの取り扱いしかなく調剤ができないと将来的に不利と考えられ敬遠されがちな現状がありましたが、今では調剤併設のドラッグストアも増え給料も高く「逆にOTCも学べる」と将来のセルフメディケーションを考え新卒薬剤師に人気が高まっています。
また処方箋を捌くだけでなく健康の拠点となる様な役割を担うことにもドラッグストアは適当であり国が求めるニーズにもマッチしています。
つまり薬剤師に求められる事が変わることは将来のキャリアプランに影響を与える事になっているということです。
また家族が入院したのをきっかけに、在宅医療の必要性を感じたり身近に尊敬できる薬剤師に影響を受けたりすると、おそらくあなたの当初のキャリアプランは大幅に修正されることになるでしょう。
つまり「これからの薬剤師のニーズ」と「あなたの心境の変化」によって明確なキャリアプランを実現するのはおそらく無理で、その必要性すらないと言えます。
これは何も「目標は不要だ」と言っているのではなく、遠い将来を見越して努力することも大切だと思いますが、一生涯を考えたキャリアプランを練る必要はなく、その都度自分のキャリアプランを考えて行けばいいと思います。
薬剤師が将来を見越してやるべきこと
と言う事で薬剤師の将来性を考えると悲観的な論調の物が多いですが、個人的には需要が一概に減る可能性はそこまで高いとは思えません。
しかしこれらはあくまで個人的な推測なので、繰り返しになりますが将来がどう変わるかは分かりません。
ただ薬剤師として働く以上将来を悲観しても良い事は少なく、結局はどれだけ環境や考えが変わっても、自分が求められる事に対して本当に必要な努力を続けられるかどうかになるのではないでしょうか。